総論

有価証券報告書の重要な事項に虚偽記載等がある場合、株主損害賠償請求訴訟による請求の相手方(被告)となりうる者は、以下の3つの類型が一般的です。

  1. 有価証券報告書を提出した会社
  2. 有価証券報告書を提出した当時の役員等(取締役、会計参与、監査役若しくは執行役又はこれらに準ずる者)
  3. 有価証券報告書に監査証明をした公認会計士又は監査法人

株主損害賠償請求訴訟において主張する法的根拠は、主に (1) 金融商品取引法(金商法)の規定に基づく損害賠償請求と (2) 不法行為(民法第709条)に基づく損害賠償請求の2つです。被告の3類型と、2つの法的根拠に応じた原告株主にとってのメリット・デメリットの概要は下表のとおりです。

被告の類型 (1) 金商法の規定に基づく損害賠償請求の場合 (2) 不法行為に基づく損害賠償請求の場合
I. 会社 メリット
  • 無過失責任(故意又は過失の立証が不要)
  • 損害額及び因果関係の立証につき、推定規定を援用可能
デメリット
  • 無過失責任(故意又は過失の立証が不要)
  • 時効期間が短い(有価証券報告書の提出から5年、虚偽記載の公表時から2年)
メリット
  • 時効期間が比較的長い(有価証券報告書の提出から20年、虚偽記載の公表時から3年)
デメリット
  • 故意又は過失、損害額及び因果関係の立証が必要
II. 役員等 メリット
  • 過失の立証責任の転換(被告が無過失を立証しなければならない)
  • 時効期間が比較的長い(有価証券報告書の提出から20年、虚偽記載の公表時から3年)
デメリット
  • 損害額及び因果関係の立証が必要
III. 公認会計士
又は監査法人
メリット
  • 過失の立証責任の転換(被告が無過失を立証しなければならない)
  • 時効期間が比較的長い(有価証券報告書の提出から20年、虚偽記載の公表時から3年)
デメリット
  • 損害額及び因果関係の立証が必要

金商法に基づく損害賠償請求の場合と、不法行為に基づく損害賠償請求の場合とを比較した場合、後者の場合においては故意又は過失、損害額及び因果関係の全てを原告株主が立証しなければなりません。したがって、会社を被告とする金商法に基づく損害賠償請求が消滅時効のためにできない場合を除けば、金商法に基づく損害賠償請求を第一に考えることが一般には得策といえます。

金商法の規定に基づく損害賠償請求をする場合、被告が会社であれば無過失責任を負うことになるため、会社の故意又は過失は訴訟において争点とはなりません。また、被告が役員等又は公認会計士若しくは監査法人であれば、故意又は過失の立証責任が転換されている(原告株主が故意又は過失を立証するのではなく、被告である役員等及び公認会計士又は監査法人が無過失を立証しなければならない)という点で、原告株主側の立証責任が緩和されています。そして、被告が多数いれば、裁判で勝訴した場合、各被告が損害賠償について連帯責任を負うため、できるたけ多くの者を被告として訴訟を提起した方が原告株主の利益になるとも考えられます。

しかし、故意又は過失の立証が不要である会社を被告とする訴訟に比べると、役員等又は公認会計士若しくは監査法人を被告とする訴訟においては、被告側から無過失を立証するために多数の証人の尋問が申請され、訴訟が長引く可能性があります。また、金商法の規定に基づく損害賠償請求をする場合にも、損害額及び因果関係の立証につき、推定規定を使うことはできません。そこで、損害賠償のための十分な資力が会社にある場合には、会社のみを被告とし、役員等や公認会計士、監査法人は被告としないことも考えられます。

これらの請求が認められるための要件の詳細については、会社に対する請求、役員等に対する請求、公認会計士又は監査法人に対する請求をご参照下さい。