損害額の考え方

錯綜する見解

有価証券報告書の虚偽記載等に起因する損害額をどのように認定するかについては、非常に多くの見解があり、錯綜した状況にあるといえます。これらの見解の主要なものは以下のとおりです。

  • (あ)取得価額そのものを損害額とする見解
  • (い)取得価額から処分価額(株式の保有を継続している場合、口頭弁論終結時の市場価額)を控除した金額を損害額とする見解
  • (う)虚偽記載等公表時の市場価額から処分価額(株式の保有を継続している場合、口頭弁論終結時の市場価額)を控除した金額を損害額とする見解
  • (え)取得価額から,虚偽記載等がなかった場合に想定される取得時の価額を控除した金額を損害額とする見解
  • (お)損害の発生は認められるが、損害の性質上その額を立証することが極めて困難な場合に該当するとして、民事訴訟法第248条により裁判所の裁量により認定した金額を損害額とする見解

西武鉄道事件最高裁判決

上記のように見解は錯綜していますが、有価証券報告書の虚偽記載等を理由とする株主損害賠償請求訴訟の事案において、損害額がどのように認定されるかについては、西武鉄道事件最高裁判決が示した次の算式(下記〈図1〉)が今後の裁判でも重要な指針となるものと考えられます。

損害額 = 取得価額
− 処分価額または事実審口頭弁論終結時評価額
− 虚偽記載に起因しない下落額

もっとも、かかる算式に依拠するとしても「虚偽記載に起因しない下落額」は、個々の事案において様々な要素を考慮した上で認定されるもので、訴えを提起する時点で確度の高い予測をすることは困難と言わざるを得ません。そこで、訴え提起の時点で請求する損害額は、以下の算式を基準として決定することになります。

損害額 = 取得価額
− 処分価額または事実審口頭弁論終結時評価額
賠償対象となる損害額の考え方

西武鉄道事件最高裁判決の射程(適用範囲)と実践的対応方法

しかし、西武鉄道事件最高裁判決は、「有価証券報告書等に虚偽の記載がされている上場株式を取引所市場において取得した投資者が、当該虚偽記載がなければこれを取得することはなかったとみるべき場合」という前提条件を付して、上記の算式により損害額を算定すべきとしています。
そのため、虚偽記載の有無にかかわらず、投資者が株式を取得した可能性があり、単に、取得価額の高低にのみ影響があったと判断される事案に、上記の算式が適用されるかについては必ずしも明らかではありません。

また、上記最高裁判決については、田原睦夫裁判官の補足意見及び寺田逸郎裁判官の意見が付されていることからも、異なる事件については、損害額についての別途の判断基準が提示される可能性があります。

したがって、今後裁判例の集積がなされるまでの間は、株主損害賠償請求訴訟の原告株主は、請求額が最も高くなる見解に依拠して訴訟提起することが実践的対応方法と考えられます。具体的には、株式の取得価額全額及び訴訟に要した費用(弁護士報酬を含む)、並びにこれらに対する民事法定利息を請求すべきものと考えます。