推定規定について

推定規定とは

虚偽記載等のある有価証券報告書を提出した会社に対して金商法の規定に基づく損害賠償請求をする場合には、同法第21条の2第2項により、虚偽記載等があることが公表された日(公表日)からさかのぼって1年以内に有価証券を取得し、公表日まで継続保有した株主は、公表日前1か月間の市場価格の平均額から公表日後1か月間の市場価格の平均額を控除した額を損害の額とすることができます(図2)。
ただし、株主が当該有価証券を取得するために支払った金額(取得価額+手数料)から、処分価額または損害賠償請求時における市場価額を控除した金額が上限となります。
これにより、本来株主が損害の発生及び虚偽記載との因果関係を立証しなければならないところ、この負担が緩和されることになります。ただし、同条4項により、損害の全部または一部が当該虚偽記載等と無関係な株価の下落分であることを会社が証明した場合には、その全部または一部が損害額から控除されます。また、同条第5項により、裁判所が判断する相当な額を、当該虚偽記載等と無関係な株価の下落分として損害額から控除されることがあります。

推定規定の適用を受ける期間

具体的な株主損害賠償請求訴訟においてこの推定規定を援用する場合、公表日がいつと認定されるのかが問題となります。金商法第21条の2第3項は、「虚偽記載等の事実の公表」とは、当該書類の提出者又は当該提出者の業務若しくは財産に関し法令に基づく権限を有する者により、当該書類の虚偽記載等に係る記載すべき重要な事項又は誤解を生じさせないために必要な重要な事実について、同法第25条第1項の規定による公衆の縦覧その他の手段により、多数の者の知り得る状態に置く措置がとられたことをいう、と定義していますが、誰が公表することを要するのか、どの程度詳細かつ確実な事実を公表する必要があるのかについて、必ずしも明らかではありません。

オリンパス事件を念頭に具体的に考えると、公表日と認定される可能性がある日と、各日を公表日とした場合の推定規定に基づく損害額は下表の通りとなります。

月日
(平成23年)
公表主体・内容 推定損害額
10月14日 オリンパス社の取締役であり、直前まで代表取締役社長であったマイケル・ウッドフォード氏が外国紙のインタビューに対してM&Aの対価支払いが不適切であった恐れがあると回答した。 約1238円
11月8日 オリンパス社が、1990年代ころから有価証券投資等にかかる損失計上の先送りを行っており、Gyrus (ジャイラス) Group PLCの買収に際しアドバイザーに支払った報酬や優先株の買戻しの資金並びに国内新事業三社(株式会社アルティス、NEWS CHEF株式会社および株式会社ヒューマラボ)の買収資金は、複数のファンドを通す等の方法により、損失計上先送りによる投資有価証券等の含み損を解消するためなどに利用されていたことが判明した旨を適時開示した。 約623円
11月17日 オリンパス社が、過去に提出した有価証券報告書等の訂正が必要となる見通しとなった旨を適時開示した。 0円
12月6日 オリンパス社の第三者委員会による調査報告書の公表 0円
12月14日 オリンパス社が、過年度有価証券報告書等の訂正報告書等を公衆縦覧に供した。 0円

マス・メディアに対する非公式なインタビューへの回答日は公表日とならないと考え、また、虚偽記載等が株価にどれだけの影響を与えるかが明確になる事実が判明しないと公表日とならないと考えると、10月14日や11月8日は公表日とならず、オリンパス事件では原告株主が推定規定を利用するメリットはないことになります。したがって、オリンパス事件の株主損害賠償請求訴訟では、公表日をどのように認定するかが重要な論点の1つになると考えられます。ライブドア事件では、最高裁は、検察官が、司法記者クラブに加盟する報道機関の記者らに対し、有価証券報告書の虚偽記載の容疑がある旨伝達したことをもって「公表」があったと判断しています。

なお、この損害額の推定規定は、役員等、公認会計士または監査法人に対して損害賠償請求をする場合には適用されませんので、注意が必要です。

ところで、西武鉄道事件において最高裁が示した

損害額 = 取得価額
− 処分価額または事実審口頭弁論終結時評価額
− 虚偽記載に起因しない下落額

という損害額認定の算式は、不法行為のみならず、金商法の規定に基づく損害賠償請求にも妥当し得るものです。したがって、金商法第21条の2第2項の推定規定による損害額が上記算式による損害額を下回る場合には、金商法の規定に基づく請求においても、上記算式による損害額を主張することが可能です。上記算式によって損害額が認定されるのであれば、損害及び因果関係の立証が容易になりますので、このような場合には上記推定規定を援用せずに請求をする方が有利といえます。